視覚化の条件、色の測色と再現、印刷機械の調整、ファイル。標準化・規格化は、グラフィックデザイン・印刷の全作業工程にかかわるもので、色の再現と品質管理の向上を目的としています。以前「グラフィックデザイン・印刷作業工程において避けては通れない標準化」についてインタビューをした際に、アルタヴィア・フランス本社でカラーマネージメントとワークフローのエンジニアであるエルベ・リヨデ(Hervé Lyaudet)は「共通の枠組み」を構築することの重要性について指摘をしました。しかしながら、国によっては独自の規格を用いています。ヨーロッパのスペシャリストは、日本の制作現場で実際にどのような発見・体験をしたのでしょうか。これは時を遡る旅の物語でもあります。
ヨーロッパと日本との違いとはなんでしょうか。
ヨーロッパでは、国際的な基準であるISO規格に準拠しています。例えばカラーマネージメントで用いられる規格は、ISO12647-2で定義されたオフセット印刷の規格をベースにしています。このようにして、印刷工程において世界中で認められた作業の統一が可能になるのです。
日本には、「Japan Color」と名付けられた日本のみで通用する限定的な規格があります。ただし、この規格はすでに古くなってしまっているISOの規格をベースにしていて2011年から更新されていません(2020年現在)。そのために、日本ではヨーロッパではすでに解決している問題がまだ存在しています。
具体的な例をあげてくださいますか。
まず印刷工場で使用されている照明がISO規格に準拠していません。紫外線(UV)がカットされているので、蛍光増白剤を含んだ紙で色を見るときに問題が生じます。また品質管理において、まだ目視が重要視されていたり、色の確認が規格外(不適切な色温度やスペクトル)の照明の元で行われていることなどです。
その他にもレイアウトに用いられている主要なソフトが、本来イラストを描くためのソフトであるはずのIllustratorであることも、版下の製作を非常に複雑にしています。レイアウトには、レイアウト用に開発されたソフトを使う。すごく当然でシンプルなことだと思うのですが、日本ではわざわざややこしいやり方で、時間と労力をかけているのに驚きます。
ヨーロッパと違いが大きい日本で仕事をするにあたって、どのようにされていますか。
アルタヴィア・ジャパンのために最新の機器を導入したスタジオを立ち上げ、プロセスなどゼロから全て構築しました。私はパリのゴブラン校で講師もしていましたが、日本には専門的な教育施設もないので、チームのトレーニングも必要でした。
また、クライアントを対象にしたセミナーも私たちのスタジオで定期的に行っています。他の業界同様、グラフィック・アート業界も進化しています。同じやり方を10年も20年も続けていることは問題です。電化製品と同じで使えるうちは使っていたらいいという考えもあるとおもいますが、最新モデルに変えたら省エネ設計になっていて電気代がかからなくなった、ということがありますよね。私たちのスタジオは、新しいプロセスにより作業効率があがり、電力・CO2削減、無駄な校正紙の削減など環境負荷を大幅に減らすことにも成功しています。
日本にきてすでに1年以上がたちますが、仕事ではチャレンジばかりです。幸いアルタヴィア・ジャパンではよいチームに恵まれ、新しい事を学びたい、チャレンジしようというスタッフばかりなので、ここまでこれたと思っています。これからも大変さを楽しみながら、チャレンジを続けたいですね。